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縹色の水槽世界

   -water tank world of HANADAIRO-

 

music :  匿名24時

words : 鹿目ゆい

   tone  : 歌雪

   illust :  花乃軍

 movie : くいーく

  vocal :KAITO

【解説】

氷でできた博物館があった。青いヒレを持つ金魚の血を引いた縹はそこに飾られたオブジェだ。
博物館のオーナーはとかく珍しい物が好きだった。この博物館はオーナーの集めたコレクションがところ狭しとばかりに並べられている。氷の中に閉じ込められ、見世物にされようと縹はオーナーのことが好きだった。きらびやかで美しくて、もっともオブジェとしてふさわしいのは彼女だと思っていた。


また新しいオブジェがやってきた。縹はオーナーが数あるオブジェの中でも自分を一番気に入ってくれてるのを知っていたので、いつもなら気にも留めないはずだった。だが、問題はオーナーが連れてきた男だ。二人は仲睦まじく腕を組んでいた。


その日を境にオーナーはかわるがわる男を連れ込むようになった。以前までここを訪れる時は絶対ひとりだったのに、と縹は嫉妬の炎を燃やす。縹の自慢の青いヒレを愛でる瞳は変わらないが、男と寄り添うその姿が縹の心を荒ぶらす。
「僕にもあの人間みたいな腕があればいいのに」「そしたら腕を組むことだって、抱きしめることだってできるのに」。
ふと前方のオブジェが光った気がした。

縹は主人から見向きもされなくなった。気に入られていた青いヒレが突然なくなってしまったからだ。かわりに生えた2本の腕を縹は見つめる。何がどうしてこんなことに。確かに羨んだことはあるが、ヒレは僕の自慢でもあり、オーナーが僕を愛でていた1番の要因だったんだ。
ふと前方のオブジェを見る。オーナーは男と来たときはよくそれを自慢していた。
ただの青い石のかたまりじゃないか。

オーナーにまったく興味を持たれなくなった縹は、毎日を陰鬱とした気分で過ごしていた。縹の前を通り過ぎて他のオブジェを愛でるオーナーと、また違う男。縹は自分以外のオブジェにも激しい感情を持つようになっていた。

消えろ!僕以外のオブジェなんて、皆消えちまえ!醜い姿になって、オーナーに嫌われちまえ。オーナーの目に映っていいのは、愛でられるのは、僕だけだ!

突然ヒステリックな悲鳴が劈いた。オーナーが膝をついて氷ごしにオブジェを見つめている。目の前の、確か美しい女性の姿をしていたオブジェがみるみるに茶色くしわくちゃになっていく。他のオブジェにも同じような異変が起きているようで、オーナーは完全に混乱していた。大好きなオーナーが悲鳴をあげているのに、縹から上がったのは笑い声だった。縹はなぜか今なら自分の思ったことがすべて叶う気がした。ふと前方の石で出来たオブジェが視界に入る。
「お前も消えろ、早く消えろよ」
ガラガラと博物館全体の壁が崩れ始めた。氷の中から出ることができた縹は、フロアの中央でしゃがみこむオーナーに走り寄りそのまま抱きしめた。しかし突き飛ばされ激しく拒絶される。ショックで硬直する縹に、そばに立っていた男が銃口を向けた。

すべてが崩れゆく中、あの石のオブジェはもうどこにもなかった。

 

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